講師演奏シューベルト 楽興の時 Op.94-3
クリスマス会のイントロ当てカルタ、シューベルト「野バラ」覚えていらっしゃいますか? 今週末の発表会では、そのシューベルトのピアノ曲「楽興の時」を弾こうと思います。
「楽興の時」とは、音楽的な発想を小さな曲にまとめたもの、即興曲と同じような意味とされています。「歌曲王」と名高いシューベルト、彼が初期ロマン派の代表の一人と言われるのは、「歌曲」と「即興曲」という、ロマン派に特徴的な2つのジャンルを確立したためと言われています。形式が重んじられていた古典派時代から、感情を表現するロマン派時代へ向かう音楽史の中で、「即興曲」というのは、ロマン派を体現するものだったんですね。ショパンをはじめとし、後のロマン派の作曲家もたくさんの即興曲を残しています。
シューベルトは31年の短い生涯を終生ウィーンで過ごしました。早くから音楽の才能を認められたものの、裕福ではないので公立小学校の教員で生計を立てていた時期もあり、有力なツテもない上、彼の控えめな性格から音楽での成功には中々の苦戦を強いられたようです。それでも多くの友人、支援者に恵まれ、作曲活動を全うしました。あんな天才がそんな苦労を、と信じられません。
楽興の時Op.94ー3は2分足らずの短い曲で、大人の方はたぶん聴いたことがあると思います。同形で繰り返されるシンプルな伴奏に、和声の美しいメロディーが載る。ロシア風舞曲といわれ、当時から人気だったそうですが、確かに東欧的な物悲しさ、控えめさ、それがシューベルトのキャラとも、こじんまりとした佇まいの都市ウィーンともマッチする曲だと感じます。子どものころ、私は左手の伴奏が小さな水車小屋に響く杵の音のように感じていました。なので、当日は、木漏れ日の中の小川にかかる水車のような素朴な音で演奏したいです。皆さんは、どんなイメージでこの曲を聴いていらっしゃるでしょうか。
才能を認められることの難しさ、多くの友人に囲まれても天才を真に理解した人がいたのかどうか?美しいこの曲を聴くと、切ない思いがしますが、多分、今も当時も大きくは変わっていないだろうウィーンの自然と、毎夜人々が集う居酒屋ホイリゲが、彼の孤独を少しは癒していたことを願います。彼の墓地も、イメージ通りのとてもかわいらしい作りなんですよ。隣には彼が敬愛したベートーベンが眠っています。